AWSを安全に活用するためのセキュリティ対策 〜クラウド環境を守るベストプラクティス〜

どうも、オーリスの「コックピットデスク男」ことマキハラです。
デスクがコックピットみたいになってるんです。ガジェット好きなんです。また紹介したい。。。
余談はさておき、前回の記事では、サーバーレスアーキテクチャの基本と活用方法についてご紹介しました。
今回は、前回予告した通り「AWSを安全に活用するためのセキュリティ対策」について解説していきます。休日にセキュリティの本を読んでいたら急に書きたくなったので、またもや勢いのまま書いています。
当社でもAWSを活用した多くのプロジェクトを手がけていますが、クラウド環境のセキュリティは常に重要課題です。今回はその知見を共有していきます。
クラウドサービスの普及により、多くの企業がAWSをはじめとしたクラウド環境でシステムを構築・運用するようになりました。しかし、クラウドのメリットを最大限に活かすためには、適切なセキュリティ対策が不可欠です。
本記事では、AWSを安全に活用するための基本的なセキュリティ対策から、実務で役立つ具体的な設定方法、ベストプラクティスまでを分かりやすく解説します。クラウド時代のセキュリティを正しく理解し、安心してビジネスを推進するための一助となれば幸いです。
クラウド環境のセキュリティ責任共有モデルとは?
AWSをはじめとするクラウドサービスでは「責任共有モデル(Shared Responsibility Model)」が基本となります。これは、インフラやプラットフォームの安全性はクラウドプロバイダー(AWS)が担保し、その上で構築するアプリケーションやデータのセキュリティはユーザー側が責任を持つという考え方です。クラウドは便利ですが、すべてのセキュリティがAWS任せになるわけではなく、利用する側も適切な対策を講じる必要があるのです。
AWS環境における主なセキュリティリスク
AWSのようなクラウド環境では、オンプレミス環境とは異なるセキュリティリスクが存在します。主なリスクとその特徴を理解しましょう。
AWS環境における主なセキュリティリスク:
- 不適切なIAM設定によるアクセス権限の問題
- 公開されたS3バケットからの情報漏洩
- セキュリティグループの設定ミスによる不要なポート公開
- 認証情報の漏洩やハードコーディング
- ログ監視や異常検知の不備
- マルチアカウント環境での権限管理の複雑化
クラウド環境におけるセキュリティ対策の課題:
- 設定の自由度が高く、適切な設定を選択する知識が必要
- リソースの動的な変化に対応したセキュリティ管理が必要
- 様々なサービスが連携するため、全体を俯瞰した対策が重要
- 開発速度を維持しながらセキュリティを確保するバランス
これらのリスクは、適切な知識と対策によって大幅に軽減することができます。次に、AWSのセキュリティを強化するための主要サービスと設定方法を見ていきましょう。
【具体例】セキュリティインシデントの例
実際に発生したクラウドセキュリティインシデントの一例を見てみましょう:
- S3バケット公開によるデータ漏洩: 大手企業がS3バケットの権限設定ミスにより、顧客情報を含むデータが公開状態になり、外部から発見されるインシデントが複数報告されています。
- IAM認証情報の漏洩: GitHubなどのコード共有サイトにAWSのアクセスキーを誤ってコミットしてしまい、それを悪用した不正アクセスや仮想通貨マイニングに利用されるケースが増加しています。
- 権限昇格の攻撃: 最小限の権限を持つIAMロールが適切に設定されておらず、攻撃者がより高い権限を取得して環境全体にアクセスできるようになるケースがあります。
AWSのセキュリティを強化する主要サービス
AWSは、クラウド環境のセキュリティを強化するための様々なサービスを提供しています。これらを適切に組み合わせることで、堅牢なセキュリティ体制を構築できます。
1. AWS IAM
簡単に言うと: 誰が何にアクセスできるかを管理するサービス
IAM(Identity and Access Management)は、AWSリソースへのアクセス権限を細かく管理するためのサービスです。ユーザー、グループ、ロールを作成し、最小権限の原則に基づいた適切なポリシーを設定することで、セキュリティを強化できます。
重要な設定: MFAの有効化、複雑なパスワードポリシーの適用、アクセスキーの定期的なローテーション
2. セキュリティグループ & NACL
簡単に言うと: クラウド環境のファイアウォール機能
セキュリティグループとネットワークACL(アクセスコントロールリスト)は、インバウンド・アウトバウンドのトラフィックを制御するAWSのネットワークセキュリティ機能です。最小限必要なポートだけを公開するよう適切に設定することが重要です。
重要な設定: 必要なポートのみ許可、IPアドレスによる制限、定期的な不要ルールの見直し
3. Amazon GuardDuty
簡単に言うと: 脅威検知と継続的なモニタリングサービス
GuardDutyは、機械学習や異常検知を活用してAWS環境内の不審なアクティビティや潜在的なセキュリティ脅威を自動的に検出します。ログデータを分析し、不正アクセスや異常な振る舞いを検知することができます。
重要な設定: マルチアカウント環境での一元管理、アラート設定、検出結果の自動対応(EventBridge連携)
4. AWS WAF
簡単に言うと: Webアプリケーションを保護するファイアウォール
AWS WAF(Web Application Firewall)は、CloudFrontやApplication Load Balancerなどと連携して、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの一般的なWebの脆弱性から保護します。
重要な設定: OWASPトップ10対策ルールの適用、IPベースのブロック、レートベースのルール
5. AWS Config
簡単に言うと: リソース設定の評価と監査ツール
AWS Configは、AWSリソースの設定を継続的に評価・記録し、セキュリティポリシーやコンプライアンス要件への準拠状況をモニタリングします。設定変更の履歴も記録するため、監査やトラブルシューティングに役立ちます。
重要な設定: セキュリティに関するルールの有効化、AWS Config RulesとLambdaやSystems Manager Automationを組み合わせた自動修復アクションの実装、定期的なコンプライアンスレポートの確認
6. AWS CloudTrail
簡単に言うと: AWS環境の操作ログを記録・監視するサービス
CloudTrailは、AWSアカウント内のAPI呼び出しやアクションを記録し、誰が何をいつ行ったかを追跡できるサービスです。セキュリティ分析、リソース変更の追跡、コンプライアンス監査に不可欠なツールです。
重要な設定: 全リージョンでの有効化、ログ署名(Log File Validation)を有効化しての完全性検証、S3バケットへの安全な保存とアクセス制限
AWSでの実践的なセキュリティ対策
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IAMの適切な設定
最小権限の原則に基づき、必要な権限のみを付与します。ルートユーザーの使用を最小限に抑え、MFA(多要素認証)を必ず有効化しましょう。また、IAMユーザーにはグループを通じて権限を付与し、直接ポリシーをアタッチすることは避けるべきです。
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S3バケットのセキュリティ強化
S3バケットのパブリックアクセスブロック設定を適用し、意図しない公開を防止します。また、暗号化(サーバーサイド暗号化)を有効化し、重要データを保護しましょう。バケットポリシーとIAMポリシーを併用して、きめ細かなアクセス制御を実装することも重要です。
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ネットワークセキュリティの確保
VPCを適切に設計し、パブリックサブネットとプライベートサブネットを分離します。セキュリティグループとNACLを併用して、多層防御を構築しましょう。また、VPC Flow Logsを有効にして、ネットワークトラフィックを監視することも有効です。
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データ保護と暗号化
保存データ(S3、EBS、RDSなど)と転送中のデータ(SSL/TLS)の両方を暗号化します。KMS(Key Management Service)を活用して、暗号鍵を安全に管理しましょう。また、機密データには追加のアクセス制御を実装することをお勧めします。
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継続的なモニタリングと検知
CloudTrail、CloudWatch、GuardDuty、Security Hubなどを組み合わせて、包括的な監視体制を構築します。異常検知と自動アラートを設定し、インシデントへの迅速な対応を可能にしましょう。
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セキュリティ設定の自動化
CloudFormationやAWS CDKを使用してインフラをコード化し、一貫したセキュリティ設定を維持します。AWS Configのルールを活用して、非準拠のリソースを自動検出・修復しましょう。
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セキュリティのベストプラクティスの適用
AWS Well-Architected Frameworkのセキュリティの柱や、CIS AWSベンチマークなどの業界標準に基づいてセキュリティを設計・評価します。定期的なセキュリティ評価と脆弱性テストを実施しましょう。
IAMセキュリティのベストプラクティス
AWSセキュリティの基盤となるIAM(Identity and Access Management)のベストプラクティスについて詳しく見ていきましょう。
ルートユーザーの保護
ルートユーザーは無制限の権限を持つため、特に強力な保護が必要です。MFAを必ず有効化し、日常的な操作には使用せず、ルートアクセスが必要な特定の管理タスクのみに制限しましょう。また、ルートユーザーの認証情報は安全に保管し、定期的にパスワードを更新することをお勧めします。
最小権限の原則
IAMユーザーやロールには、タスク完了に必要な最小限の権限のみを付与します。過剰な権限は潜在的なセキュリティリスクとなるため、定期的に権限を見直し、不要なアクセス権を削除しましょう。AWS Access Analyzerを活用して、過度に寛容な権限を特定することも効果的です。
ロールベースのアクセス制御
個々のIAMユーザーに直接権限を付与するのではなく、IAMグループやロールを使用して権限を管理します。これにより、職務に基づいた一貫性のある権限管理が可能になり、ユーザーの追加・削除時の管理負担も軽減されます。特にサービス間のアクセスにはIAMロールの活用が重要です。
強力な認証ポリシー
アカウント全体に強力なパスワードポリシーを適用し、すべてのIAMユーザーにMFAの使用を義務付けることをお勧めします。特に重要なリソースにアクセスするユーザーや管理者権限を持つユーザーには、U2FキーやハードウェアMFAデバイスなどのより強力な多要素認証を検討しましょう。
S3セキュリティのベストプラクティス
情報漏洩の原因として多いS3(Simple Storage Service)のセキュリティ対策について詳しく解説します。
パブリックアクセスのブロック
S3バケットへの意図しないパブリックアクセスを防ぐために、「S3 Block Public Access」設定をアカウントレベルで有効にしましょう。これにより、新規および既存のバケットやオブジェクトが誤って公開されるリスクを軽減できます。特に機密データを扱う場合は必須の設定です。
データ暗号化
S3に保存するデータは、サーバーサイド暗号化(SSE)を使用して暗号化することをお勧めします。AWSマネージドキー(SSE-S3)またはKMS管理キー(SSE-KMS)を選択できます。SSE-C(お客様提供のキー)は運用負荷が高くセキュリティリスクもあるため一般には推奨されません。特に機密性の高いデータには、よりきめ細かな制御が可能なSSE-KMSの使用を検討しましょう。
バージョニングとライフサイクル管理
S3バケットでバージョニングを有効にすると、偶発的な削除や上書きからデータを保護できます。また、ライフサイクルポリシーを設定して、古いバージョンや不要になったデータを自動的に削除または低コストのストレージクラスに移行させることで、セキュリティとコスト効率の両方を向上させることができます。
セキュリティインシデント対応計画
セキュリティ対策を講じていても、インシデントの可能性はゼロにはなりません。万が一の事態に備えて、インシデント対応計画を準備しておくことが重要です。
AWS環境でのインシデント対応ステップ
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準備(Preparation)
CloudTrail、GuardDuty、Security Hubなどのモニタリングサービスを設定し、インシデント対応チームの役割と責任を明確にします。対応手順を文書化し、定期的な訓練を実施しましょう。
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検知(Detection)
設定したモニタリングツールからのアラートや異常を検知します。GuardDutyの検出結果、CloudTrailの不審なAPI呼び出し、CloudWatchアラームなどを監視しましょう。
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封じ込め(Containment)
影響を受けた可能性のあるリソースを特定し、被害の拡大を防ぐ措置を講じます。例えば、侵害されたIAM認証情報の無効化、問題のあるEC2インスタンスのネットワーク分離などを行います。
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根絶(Eradication)
侵入経路や脆弱性を特定し、根本的な問題を解決します。不正なリソースの削除、セキュリティ設定の強化、パッチの適用などを実施しましょう。
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復旧(Recovery)
安全なバックアップから正常なシステム状態に復元します。リージョン間バックアップ、スナップショット、AMIなどの復旧メカニズムを活用し、新しい認証情報の発行、強化されたセキュリティ対策の実装、段階的なサービス再開などを計画的に行いましょう。
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振り返り(Post-Incident Review)
インシデントの経緯と対応を文書化し、学んだ教訓を今後のセキュリティ対策に反映させます。必要に応じてインシデント対応計画を更新し、再発防止策を強化しましょう。
AWS環境のセキュリティ対策におけるオーリスの強み
包括的なセキュリティ設計
当社では、AWS Well-Architected Frameworkに基づいた包括的なセキュリティ設計を提供しています。IAM、VPC、暗号化、モニタリングなど、多層防御の考え方でAWS環境のセキュリティを強化します。
自動化されたセキュリティ対策
手動設定によるヒューマンエラーを減らすため、CloudFormationやAWS CDKを活用したインフラのコード化、AWS Configによる設定のコンプライアンス監視など、セキュリティ対策の自動化を推進しています。
業界標準への準拠
PCI DSS、HIPAA、GDPR、ISMAPなど、業界や地域特有のコンプライアンス要件に対応したAWS環境の設計・構築が可能です。お客様のビジネス要件とセキュリティ基準に合わせた最適なソリューションを提案します。
AWSセキュリティチェックリスト
AWS環境の基本的なセキュリティ対策として、以下のチェックリストをご活用ください。
AWS環境の基本セキュリティチェックリスト
- □ ルートユーザーにMFAを有効化し、日常的な操作には使用していない
- □ IAMユーザーへの権限は最小権限の原則に基づいて付与している
- □ 重要なIAMユーザーにはMFAを義務付けている
- □ IAMパスワードポリシーは十分に強固に設定している
- □ アクセスキーは定期的にローテーションしている
- □ CloudTrailを全リージョンで有効化している
- □ S3バケットのパブリックアクセスブロック設定を有効化している
- □ 重要なデータは暗号化している(S3、EBS、RDSなど)
- □ セキュリティグループの設定は必要最小限のアクセスのみ許可している
- □ VPCフローログを有効化している
- □ GuardDutyを有効化し、アラートを設定している
- □ AWS Configでコンプライアンスルールを設定している
- □ セキュリティの検出結果を一元管理するSecurity Hubを有効化している
- □ 定期的にAWS Trusted Advisorのセキュリティチェックを確認している
- □ インシデント対応計画を策定し、定期的に見直している
まとめ
AWSをはじめとするクラウド環境では、提供されるセキュリティ機能を適切に活用することで、高いレベルのセキュリティを実現することができます。IAMによる適切なアクセス制御、データの暗号化、ネットワークセキュリティの確保、継続的なモニタリングなど、多層防御の考え方で包括的にセキュリティ対策を実施することが重要です。
AWSセキュリティのポイント(まとめ)
- 責任共有モデルを理解し、ユーザー側の責任範囲を明確にする
- 最小権限の原則に基づいたIAM設定でアクセス制御を強化する
- 機密データは必ず暗号化し、適切なキー管理を行う
- 継続的なモニタリングと自動アラートで早期検知・早期対応を実現する(Security Hub + EventBridge + Lambdaなどの連携が効果的)
- セキュリティ設定の自動化と定期的な監査でヒューマンエラーを減らす
私たちオーリスは、AWSのセキュリティに関する豊富な知見と経験を活かして、お客様のクラウド環境を安全に構築・運用するためのサポートを提供しています。セキュリティ対策の強化をご検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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岡山のシステム開発企業・オーリスがAWSセキュリティの知見を活かし、お客様に最適なソリューションをご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
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